平成20年12月22日 新共生スキームPT
成田空港は、その建設の過程で激しい空港反対闘争が発生、国と地域住民との深刻な対立を生じ、地域社会にも大きな傷を残した。しかし1990年ごろから話し合いで問題を解決しようとする気運が高まり、シンポジウム、円卓会議を経て導き出されたのが「共生」の理念である。ここでいう「共生」とは、対立しながらもお互いを認め合い、相互理解のもとに解決するという考え方、行動様式であって、それに従い国・空港公団は様々な共生策を進めることによって対立の解消に努力してきた。
そうしたなかで、成田空港地域共生委員会(以下「共生委員会」という)や、成田空港周辺地域共生財団など、いわば「成田方式」とも言える制度が創設され、様々な環境対策・共生策が推進された結果、今では地域は明るさを取り戻している。このように、成田における共生スキームが他に例を見ない独自の実績を積み重ねてきたことは高く評価できる。
「地域と空港との共生」は、1994年の隅谷調査団所見にもあるとおり、「空港を運営する側が、空港によりデメリットを受ける住民に対しどのような理解を示し、血の通った対策を講ずるかが、空港がその地域社会の一員として存続し得る必須の条件になる」との考え方を土台としており、国や空港会社に対する地域住民の不信感やわだかまりを拭い去り、信頼関係を構築していくことが何よりも重要である。
その意味で、共生委員会は共生スキームの中核的存在として、「共生」という理念の実現、地域と空港との信頼関係の強化などに多大なる貢献があったことは論を待たない。
また、共生委員会の各委員が、「空港周辺地域のすべての住民にとってのマイナス面の軽減」という観点から、個々の地区の利害に左右されず、公平、中立かつ独立した立場で様々な課題に取り組んできたことは、地域における共生委員会の地位を確立する上で、特筆すべき役割を果たしたといってよい。
(1) これまでの共生スキームの主な活動と成果
1 共生委員会
2 関連プロジェクト
(1) 空港を取り巻く状況の変化
成田空港については、2004年にその運営形態が公団方式から政府全額保有の株式会社に転換されたが、現在、その株式を上場して民営会社とする方向で検討が進められている。また、今後、平行滑走路が2,500m化されて発着回数も22万回に増加するが、首都圏における更なる国際航空需要の増加に対応するため、空港会社は2008年3月に「成田空港の能力は、環境面、施設面、運用面の制約を解消できれば、最大30万回まで増加可能」との考え方を示した。
他方、地域においても、空港からのマイナスの影響の軽減と並んで、空港を最大の地域資源と位置づけ、地域が主体的に参画して、空港と周辺地域が共に栄え、地域づくりを通して発展していくことを目指す「共栄」という考え方が広まりつつある。
こうしたことは共生委員会の発足時には想定されていなかった事態であり、これらの新たな課題にも対応するため、「共生」という理念を堅持しつつ、新たな体制を構築して行くことが急務となっている。
(2) 今後の方向性
1 基本的な考え方
そのためには、従来の共生スキームもそれに対応して見直しをすることとし、共生委員会は第7期終了を機に、発展的に解消することとする。ただ、その際に留意しなくてはならないのは、共生大綱においては「地域と空港との共生という理念は、成田空港がこの地にある限り続く永遠の課題」としているように、将来に渡って「共生」理念を着実に継承していくことが不可欠だということである。これまで共生委員会が空港と地域住民との信頼関係を形成して「共生の時代」を構築し得たのは、あくまで地域住民の立場に立って住民の目線で取り組むという姿勢を貫いてきたからであったことを踏まえると、新しい共生スキームにおいても、お互いを認め合い、適正な相互理解のもとに解決するという「共生の理念」がしっかりと引き継がれなければならない。
また、共生委員会の各委員が、個別の地域の利害を背景として発言することなく、地域全体のことを考えて発言するという、これまでの共生委員会の伝統も継承されるべきである。
2 新しい共生スキーム
新しい共生スキームでは、地域と空港との対話の場を確保するなど「共生の理念」を引続きベースとして、マイナス面に関する事項だけでなく、並行してプラス面の新たな課題にも対応できる体制を構築する。
ただし、新しい共生スキームについては、空港会社の法制度や今後の株式上場問題など、状況の推移を見定めなければならない問題があり、不確定要素が多いため、具体的に言及するのは時期尚早だが、新たな法制度の実施状況や共生財団との関係なども視野に入れ、新しい共生スキームのあり方を関係者間で改めて検討することとする。
3 暫定的な組織体制
新しい共生スキームの構築については、現在の状況から見て、相当程度の時間(例えば1?2年)がかかることが予想されるので、当面、暫定的な組織を発足させ、いわば「つなぎ」的役割を果たせるよう措置する。この暫定組織においても、住民と空港の対話や相談の場として、「共生の理念」をベースとして、マイナス面に関する事項だけでなく、並行してプラス面の新たな課題にも対応することとする。
その暫定的な組織体制の概要は次の通りとし、詳細については発足までに検討することとする。
なお、歴史伝承プロジェクトについてはNAAプロジェクトチームによって推進することとする。また、地域振興連絡協議会の地域づくり部会が行っていた事業についても、新しい共生スキームで引き継ぐ方向で検討することとする。